「ウォッチメン」を観た感想は『後味が苦い大人の映画』だった

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ウォッチメンを観ました。僕としては大当たりの映画作品でしたが、誰にでも勧めるかというとそうではありません。なかなかの曲者作品でした。

基本情報

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アメリカの人気グラフィックノベルを『300 <スリーハンドレッド>』のザック・スナイダー監督が映画化。世界の監視者として重大事件に関わり続けてきたウォッチメンたちは、77年に政府から施行された法律によって活動を禁じられていたが…。

感想

全体を通して物語の背景には歴史のパロディや皮肉が散りばめられていて勧善懲悪の単純な構成ではありませんし、ちょっと思想的な内容に見えるかもしれないなと思います。

 しかし実際そういう側面も少なからず含まれているにせよ、やはりこの作品は「ヒーロー物」として観るのが正解だと思います。ただし、より人間臭くて内面の汚さもしっかり持ったリアルな生活感を持つヒーローですので、うかつに接するとショックを受けるような。僕はこんなにも後味の悪いヒーロー物を観たことがありません。

 少女を誘拐した犯人が、少女を殺害した後で飼い犬にその死体を喰わせるくだりがあります。その犯人を追い詰めたヒーロー「ロールシャッハ」は、自分は病気だから治療が必要だと云い訳する犯人の脳天を何度も包丁で叩き割り、この事件をきっかけに悪に対してより強靭な怒りをもつようになるのです。

 この一連のシーンでは、どこに感情移入すればいいのか戸惑うこととなりました。

映像に見ごたえあり

1986年にこの話を書き上げたアラン・ムーアの独自性もえげつないのですが、この作品をここまで徹底的に映像化したザック・スナイダーもえげつないのです。

 ヒーローという架空の存在を実在したと仮設定することで、社会の問題を客観的に描写するフィルターとして機能させている原作を、こういう形でビジュアルに纏め上げる事が出来るとは。

 綺麗な映像だけを切り取って見せるような監督ではありませんから、エロもグロもアクションもしっかり描き出します。ゴア表現はDAWN OF THE DEADに引けをとらない出来栄えですね。突然そういった表現が飛び出すものだから、切り株映像が苦手な人は注意が必要です。

 序盤のミステリ仕立ての展開から、後半のコミックタッチの見せ場に繋がる辺りは、短絡的な物語に陥りがちなアメコミの映像化とは明らかに異質なもので、作品全体を構成する要素があまりに膨大であることを示しています。それでもアクションのシーンではゾクリとさせられる味付けがしっかりなされており、刑務所襲撃時のシルクスペクターが見せる格闘は最高!!! 

音楽について

音楽の使い方も見逃せない要素でした。ジミ・ヘンドリックスやボブ・ディラン、サイモン&ガーファンクルなど、時代の寵児達の音が絶妙なタイミングで作品を彩ります。その選曲センスもタイミングも素晴らしくて唸らされました。ナット・キング・コール「Unforgettable」をバックに格闘シーンをはめるセンス。 

最後に

全体を通して、時系列を巧みに入れ替えながら語られる物語ですので、その部分を楽しめないとかなり辛いかもしれません。

 160分以上の作品の中で、いくつかの疑問が後から判るという造りになっているんですね。すんなり楽しめる人には疑問にさえならない部分でも、ノリきれない場合は難解な作品として捉えられるケースは、マトリックスでも起こった事です。このことは、「アメコミの初心者にとっては難解」ということでは無いはずなんですけど、世間的にはそう言われてしまうだろうことは、なんだか残念です。■■

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