「インセプション」を観た感想は『映画好きの人には是非見て欲しい』だった

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インセプションを観ました。ストーリーそのものは実に判り易いプロットが発端となっています。人の夢の中に侵入し情報を抜き取るという産業スパイが、あるクライアントの依頼によって「抜き取り」ではなく「植え付け(インセプション)」という成功確率の低い危険なミッションに挑む、というものです。

基本情報

インセプション [Blu-ray]

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ドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ)は、人が一番無防備になる状態―
夢に入っている時に潜在意識の奥底まで潜り込み、他人のアイデアを盗み出すという、危険極まりない犯罪分野において最高の技術を持つスペシャリストである。
コブが備えもつ類稀な才能はこの業界でトップレベルであり、裏切りに満ちた企業スパイの世界において引っ張りだこの存在となっていた。
だがその才能ゆえ、彼は最愛のものを失い、国際指名手配犯となってしまう。

そんな彼に絶好のチャンスが訪れる。
彼が最後の仕事と決めたミッションを果たすことさえできれば、かつての幸せな人生を取り戻せるかもしれないのだ。
だがその任務はほぼ不可能に近い「インセプション」と呼ばれるものだった。
今回は彼が得意とするアイデアを盗み取るミッションではなく、コブとその部下のスペシャリストたちで構成されたチームは強盗とは真逆の行為―
つまり 「インセプション」 とはアイデアを“盗み出す”のではなく他人の潜在意識に入り込み、ある考えを“植えつける”という最高難度、究極のミッションを意味する。
これを成し遂げればそれこそ真の完全犯罪となりうる。

しかしながら最高の技術を持ち、細心の注意を払って準備を行ったが、予測していなかった展開が待ち受けていた。
彼らの動きを全て先読みする手強い敵と対戦する準備は到底できていなかったのだ。
その敵の存在を予見できたのはコブただひとりだった――。

 感想

なんともB級臭漂うアクションもののような作品にも思えるのですが、本作は全くその様相ではありません。夢に侵入するというアイデアがとりわけ目新しいギミックではないのに、クリストファー・ノーラン監督の手腕によって、なんとも刺激的で頽廃的な空気が創りだされています。

 手垢の付きまくったこの方法論において、まだこんな表現と味付けが残されていたのかと感心してしまいました。

 物語の系統で言えば、「マトリックス」「攻殻機動隊」「ブレード・ランナー」「パプリカ」に代表されるような所謂サイバーパンクの作法を踏襲しているアイデンティティもので、古くは「ジェイコブス・ラダー」や「トータル・リコール」も、サイバーパンクというカテゴライズから外れる作品ながら近い要素が含まれていました。(注意:「アイデンティティもの」とは、僕が勝手にそう呼んでいるだけなので、知ったかぶりしてうかつに発言しませんように!)

 ユメ/ウツツという2極構造は物事の表裏、善悪、虚実の判り易いメタファでありますから、物語の対立軸や世界観のコントラストを表現する道具として物凄く便利な反面、設定された世界のルールを丁寧に判りやすくしかも物語の序盤で素早く説明してしまう必要があって、この部分で失敗するともう後はグダグダになってしまうというリスクも孕んでいます。

 グダグダ作品の例は枚挙に暇がないのですがユニバーサル***とかデモリション***とか、ある種の共通した香りが漂うあのテの感じです。アクション映画として成立させようとしていながらプロットの根底にはアイデンティティもののエッセンスが潜んでいるこれらの作品は、アクションに注視するあまりその設定部分を平気で放り投げてしまう傾向があって素材としてもったいないなと感じるのです、これはかなり好意的な意見でしょうか。

 いずれにせよ本来、込み入った設定そのものが面白さの根幹であるが故に、エンタテインメントとして自立する為には優れたストーリーテリングを前提とする危険なジャンルと言えるでしょうね。

判り易い物語 

「インセプション」の監督クリストファー・ノーランは、若い監督ながらストーリーテリングのセンスが抜群です。出世作「メメント」において物語そのものはもちろん、その語り方(編集)のトリッキーさで一躍有名になった彼ではありますけど、とにかく物語を判り易く表現するという部分で秀逸です。

 一見ややこしいインテリジェンスを観客に提供しているように見えて、結果的には微かな疑問を残す程度にまでは判り易く観客を導いてくれるという「サジ加減」が絶妙なのです。

 そうは言っても、スパイダーマンのような判り易さからは圧倒的に距離があり素直に物語に乗っかろうとすると、簡単に置いて行かれる可能性は充分あり得ます。「そんな物語の何処が判り易いのか」と言われそうですが、この設定と世界観を語ろうとした時に本来ならもっと複雑で重層的な話になってしまう所を、こんなにも理解への非常口を用意してくれているおかげで、「多少の振り幅はありつつも概ね同じ着地点に到達出来るように創られている」という判り易さなのです。

完成度は高いが地味 

映画作品としては正直言って地味な印象です。僕としては渋いと表現したいわけですが、絵も音楽も物語を語る為のパーツとして存在している感覚が強いように思いました。

 CGが凄いとか役者が凄いとか、どこか一部分を抜き出して称賛するというよりも、トータル的に完成度が高いのです。高速度カメラによる時間の断面もただ単なる映像的演出というよりは、理屈を説明する為に効果的に利用したと言えるでしょう。

 こういう知的なセンスの作家は最近あまり見掛けないように思います。ニューウェイヴと称された作家達が更なるエンタテイメント性を獲得したとすれば、きっとこんな感じなんじゃないでしょうかね。

最後に 

細かな部分でもあーだこーだと言いたい気持ちを押さえて、作品全体の印象を書きました。判り易いという事を説明しているのに、こんなにも判り難い文章になっている事に少々自戒の念を覚えつつ、映画好きのあなたには強くオススメいたします。

 物語、役者、音楽、映像、編集、どれをとっても僕的にはAランクです。何度も書きますけど、地味ですよ。■■

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