何度も観ている作品なんです。劇場公開当時は勿論劇場に出向いて行きましたし、鑑賞後はドハマリして二度目の劇場鑑賞も割と直ぐでした。
そもそもデヴィッド・リンチ監督の作品は大好物だったのですが、彼のフィルモグラフィの中で、本作がダントツで好きです。
僕の映画生涯ランキング1位です。
今更ながら、ネタバレを厭わず好き勝手に書き綴るつもりですので、ご承知の上でお読み下さいませ。
基本情報
夜のマルホランド・ドライブ道路(英語版)で自動車事故が起こる。事故現場から一人生き延びた黒髪の女性は、助けを求めにハリウッドまでたどり着く。女性が偶然潜り込んだ家は、有名な女優ルースの家だった。ルースの姪である女優志望のベティに見つかった黒髪の女性は、部屋に貼られていた女優リタ・ヘイワースのポスターを見て、反射的に「リタ」と名乗った。彼女はベティに自分が事故で記憶喪失になっていると打ち明ける。リタのバッグには大金と青い鍵。ベティはリタの失った記憶を取り戻すことに協力する。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
感想
まあ、1回目の鑑賞では話の概要さえ掴めない方も多いんじゃないでしょうか。
僕もそうでした。
物語の時系列も良く判らないまま出来事だけがドンドン積み重なっていく感じ。
そして気が付けば、保留した謎が溜まったまま何も解決されず物語は終焉を迎える、ように感じます。
僕は3回目を観終わるまで、全くその状態のままでした。一つ一つのエピソードや事件が、一向に収束して来ないし、一見すると無関係にしか見えなかったりするのです。
つまり、観る側の「能動的な疑問解消欲求」を強烈に求めてくる映画作品なんですよ。
茫漠たる気持ちで映画的演出やセリフに、解決のキッカケを求めるような観方をしていると、いつまで経ってもこの作品は、テーマさえまともに提示してくれないという有様です。
女優が鍵
Embed from Getty Images本作、ナオミ・ワッツの出世作品でもあります。
ご存知ですか、ナオミ・ワッツ。
僕はこの作品を観てから大好きなんですよ。
本作出演後、ハリウッド版「ザ・リング」、ピージャク版「キングコング」などに次々と出演し、最近だと「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」なんかも出演していましたね。
キャリア積みつつも中々評価される機会に恵まれず、本作で主演に抜擢されるまでは苦しい生活が続いていたのだとか。
しかし、デヴィッド・リンチ監督は流石ですね。
本作で「ベティ」を演じた彼女は、最高でした。
この作品程ナオミ・ワッツの女優としての技量を押し出した作品は、他にないんじゃないでしょうか。
ナオミ・ワッツ
Embed from Getty Imagesざっくり説明しますと、物語中盤とある劇場のシーンで、ブルーボックスというキーアイテムに青い鍵を差し込んだ瞬間に、それまで観てきた前半のストーリーやキャラ設定などが、なんの説明もなく突如変更されるんですね。
映画を観ていた人の90%はこの時点で完全に放り出されます。
10%の人達は、リンチの作品だからこういう事もあるわなもうちょっと観てみよう、と続きを観た事でしょう。
ともかく。
折り返しの瞬間から映画の様相がガラリと変わります。それまで夢多き才能溢れる女優の卵として華やかなキャラクタを演じていたナオミ・ワッツは、ヤサグレ感満開のビッチに突如として変貌してしまい、嫉妬に狂うどうしようもない女を演じ始めるんですね。
この演技力の幅がヤバいです。
同じ作品の中でこんなにも違う側面を見せる事は珍しいんじゃないでしょうか。
物語序盤のキャラクタが実は偽物でミスリードだった、なんて演出はままありますしエンタメの醍醐味の一つとして目新しいものではありません。
が、明解な種明かしが伴う場合はそうなのであったとしても、リンチ監督の描く極端に情報が偏った演出の中で展開されると、残りの8%くらいの人々まで、ブンブンと振り落としてしまうわけです。
ただ何れにせよ、ナオミ・ワッツの演技は最初から最後まで輝いています。
僕はこの作品で、一気にワッツファンになってしまいました。
そしてこの作品、物語の構成上重要な役割を担う女優がもう1人出演しています。
「リタ」を演じたローラ・ハリングです。
ローラ・ハリング
Embed from Getty Images彼女の記憶喪失を解消しようとすることが物語前半のテーマなんですね。
このミステリアスな女性は一体誰なのか?断片的に与えられる情報は、果たしてどのようにつなぎ合わされるのか。
そんな気持ちであれこれと考えを巡らせて観続けていると中盤で手痛い逆転を食らってしまうワケです。
ああ、どんでん返しがある事を知ってしまうのはネタバレとはいえますが、全然気にしなくても大丈夫です。
どんでん返しがあろうがなかろうが、この物語の珍奇さ(正に珍奇)は損なわれませんので。
このリタもまた、物語中盤でキャラクタがグルリと裏返ってしまう(キャラ設定的意味で)のが面白いんですよ。
そして女優さんってすげーなーと唸らされるワケです。
かなりざっくりしたいい方にはなりますが、本作はリタとベティの悲しいラブストーリーです。
その事に気が付けたのは鑑賞3回目くらいの事でしたが、色々の解釈や自分なりのオトシドコロを用意してなんとかたどり着いた結論。
この二人の女優は、この物語に実にマッチしていたと思うのです。
デヴィッド・リンチによる10個のヒント
Embed from Getty Images- 映画の冒頭に、特に注意を払うように。少なくとも2つの手がかりが、クレジットの前に現れている。
- 赤いランプに注目せよ。
- アダム・ケシャーがオーディションを行っている映画のタイトルは? そのタイトルは再度誰かが言及するか?
- 事故はひどいものだった。その事故が起きた場所に注目せよ。
- 誰が鍵をくれたのか? なぜ?
- バスローブ、灰皿、コーヒーカップに注目せよ。
- クラブ・シレンシオで、彼女たちが感じたこと、気づいたこと、下した結論は?
- カミーラは才能のみで成功を勝ち取ったのか?
- Winkiesの裏にいる男の周囲で起きていることに注目せよ。
- ルース叔母さんはどこにいる?
この野心的な演出、サービスがリンチの醍醐味です。
この10個のヒントが、劇場公開当時の公式webや宣伝用チラシで公開されていました。
まるで、本格ミステリの出題編みたいな事をやってくれていました。
このヒントを手掛かりに観ると、より楽しめると思います。
何故ならより混乱するからですw。
ではこのヒントはリンチ監督の意地悪、悪戯だったのか?いえ、そうではありません。
僕が思うに、これは監督のサービス精神の表れだったんだと思うんですね。
説明された事、観た映像、時間の流れと繋がり。
それらを自分なりに再構築して物語の在り様を生み出す事が、本作のテーマだったのかなぁなんて想像します。それって凄くないですか?
与えられたリソースをそのままリニアに受け取るだけでは理解出来ないエンタメなんて!www
そして再構築するまでは、なんだか意味の分からないエピソードの羅列に見える。
しかしある仮定を立てて筋道を想像して、具体的な説明として語られなかった部分を埋めていくと、ある物語の全容がなんとなく見えてくる。
そういう映画作品です。
難解さとエンタメ成分のバランス感覚
Embed from Getty Imagesここまで書いてきた事で誤解されている可能性があるかもしれない、と感じたので念の為書いておきます。
難解そう、小難しい物語っぽい、と思われたかもしれませんが、そう身構えなくっても大丈夫です。
サラリと見れば、多少不思議な部分がある普通の物語にも見えるので。
ただ、疑問を持った観者、不思議な感覚を解き明かそうとした観者には、もっと面白くなるというだけの事です。
表題にも書きましたが、この難解さとエンタテインメント性の成分比率が、実に絶妙で味わい深い、と思うんですよね。
ただただ思わせぶりな映像を繋げて、「僕が感じる愛を表現しました」的な、アート兵的逃げ道で誤魔化すような事は決してありませんのでご安心を。
そういう類の難解さではありません。
むしろ、人々を楽しませようとする、デヴィッド・リンチ監督の心根に感動出来るほどです。
ああ、好きなんで褒めまくりですね、仕方ありません大好きなので。
最後に
いかがでしょう。うっすらとでも興味を持っていただけたでしょうか。
もし未観のあなたでしたら、ちょっとゆったりした時間のある休日の昼間や、休日の前夜など、映画を観終わった後に自由時間が持てるようなタイミングでご鑑賞ください。
誰か気の合う友人と観るのも楽しそうですね。
鑑賞後あれこれと自分の解釈を語り合うなんて楽しみには、もってこいの作品です。
あ、恋人とは観ないほうがいいかもしれません。
合わない人には徹底的に合わない可能性がありますのでね。■■
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