「ドント・ブリーズ」を観た感想は『最近珍しい教科書的優良作品だなー』だった

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映画を劇場で良く観る年末でした。

いや観せてもらってたといいましょうか。

2歳児をもつ家庭ながら一人で休みの日に2時間の自由を享受出来るのは、一重に妻の有り難い温情によるものです。

妻は、僕にとって映画を劇場で観る事にどれ程の意味があるのか、どれ程の活力になるのか、を理解してくれている数少ない人類です。

感謝しまくりで感想を書き綴りたいと思います。

いつもの通りネタバレを厭わず書きますので、ご覧になる予定のある方はご注意くださいませ。

基本情報

舞台はアメリカ・デトロイト。経済破綻しゴーストタウン化が進む街で、養育放棄の両親と暮らす不良少女ロッキーはいつの日か共にここから抜け出そうと妹に約束していたが、そのために必要な逃走資金を得られるあてはなかった。
ボーイフレンドのマネーから地下室に金庫を持っているらしい視覚障害者宅への強盗を持ちかけられた彼女はマネーと友人のアレックスの3人で真夜中に盲目の男性の屋敷に押し入る。だがその男は元・軍人であり、盲目でも超人的聴覚と怪力を持ち[4]、侵入者の殺害も厭わない恐ろしい人物だった。果たしてロッキーとアレックスは、即座にマネーを殺害した盲人の追撃を回避して、悟られることなく静寂を保ったまま密室の家屋から脱出できるのか。

感想

この作品、プロモーションで流されていたあらすじや設定を見ただけで、こらオモロイなと感じましたよね?

いやー、これはかなり良く出来た仕掛けです。

大掛かりなセットや特殊メイクを施す事なく緊張感を演出するには、最高のシチュエーションを見つけたといえますな。

「このテが残っていたか」

過去優れた創作物の出現時に、数多の凡人達(僕含む)が膝を打ちながら漏らして来た言葉です。

本作は正にその典型だと思います。

登場するのは総て生きている人間と生きている犬だけです。

つまり亡霊とかクリーチャなんかは登場しないんですね。

人間が1番オッソロシイ系の物語です。

悪人が酷い目にあう話のカタルシス

セキュリティ会社の社員を父親に持つ若者とその悪友と悪友の彼女の3人組は、セキュリティを管理している父親から鍵を盗み出して、裕福な家の留守に侵入し、もし捕まったとしても重罪になる額面を下回るよう計画しながら窃盗を繰り返しているんですね。

まーまー最悪な若者達です。

観ている側の気分としては、この悪さをしている若者達には感情移入しないところからスタートします。

ひっでーなーこいつらー、みてーな感じです。

しかし悪友の彼女だけ、お金を必要とする理由が描写されます。

毒親の存在から逃げ出したい自分と妹。

あコイツは生き残るな、と判りやすい演出ですよね。

こういう丁寧さ、大事。

さて一見、哀れな盲目の退役軍人じいさんには役名すらありません。

ただ「盲目の男」としてしか表現されないんです。

この盲目の男をスティーヴン・ラングが演じています。

有名な役でいえば、「アバター」のラスボス軍人でしょうか。

ナイフの扱いがカッコよかったですよね。

あの役者が演じている老人ですから、まームキムキなんです。

超屈強な老人。

肩なんてパンパンですからね。

カッコいい肉体だわー。

顔も渋い。

つーか怖い!

こんな顔面のじいさんの家に侵入するなんて出来ませんぜ、フツー。

冒頭間もなく哀れな3人の若者は、このいかつい顔面の老人宅に忍び込みます。

結構雑な計画で。

すっかり舐めとるんですね。

ここで犬が一旦登場しますが、睡眠薬入りの餌でまずは排除。

老人の寝室にも睡眠薬の気体をバラまいてまずは一安心、てことで出っかい鍵が掛かった扉を破壊しにかかります。

ここで、今まで一度も使っていなかった銃を取り出してしまう軽率な悪友。

いいですねーいい展開です。

銃を使ってしまった事により、正当防衛が成立し殺されたとしても文句をいえないお膳立てが整いました。

整いました!

老人はすっかり寝ていると信じ切っている悪友はガンガン扉を壊そうとしますが、あと一歩のところで、すぐそばに老人が立っているのに気が付きます。

音もなく忍び寄る筋肉ムキムキの盲目老人。

キッター死亡フラグ立ちまくりー。

で、あっさり悪友君は銃を奪われて顎を撃ち抜かれて逝ってしまいます。

この銃声が、僕には試合開始のゴングに聴こえました!

息を殺して観る映画

でココカラは、盲目の老人からいかにバレずに脱出するかって話になるわけですが、演出がイイものですから、とにかく疲れる時間(褒め言葉)がしばらく続きました。

観てるコッチまで息をひそめてしまうのは、演出の技ですな。

これ、ホラーやスリラー映画の醍醐味の一つね。

落ち着いて考えれば、眼が見えていない相手に2人で挑むのですから全然有利なハズなんです、相手が銃を持っていようとも。

でもそう感じさせないのは、スティーヴン・ラングから沸き立つ威圧感が強烈だからでしょう。

こいつには勝てない……。

無理すんな、とっとと逃げろよ……。

途中ブレーカーを落とす場面があり地下室で完全に真っ暗闇になってしまうんですね。

逃げ惑う男女の若者はお互いの位置が判らず、しかし声を上げるわけにもいかない。

それでも盲目の老人は元々見えていないので、ガンガン距離を詰めてくる。

時々かなり正確に射撃してくる。

ここむっさ怖い!

絵的には暗視カメラで、回りが見えてない人間と見えてないけどそれが普通という人間を追いかけっこさせてるのを撮ってるだけなのに、むさむさ怖い。

これは本当にいい仕掛けを思いついたものですねー。

大きなコストをかけずに見事な恐怖の場面を創り出していました。

怖がりながら何度も感心してしまいました。

途中で感情移入先が変わる楽しみ

これもまた、優れた作品でよくみかける展開です。

つまり、最初は悪さを企む若者達が失敗すればいいのにと老人側の視点で物語を観進めていたのが、途中である事実が露見した途端に、突如若者側の視点で物語の行く末を見守るようになるんです。

その事実とは。

逃げる途中地下室で、縛られて口も塞がれた女性が突然現れるんです。

むっさビビりました。

この女性、かつて老人の娘を事故で轢き殺してしまったにも関わらず金持ちだった為に高額の保釈金を積んで無罪放免となった過去を持っています。

その事が許せなかった老人は彼女を監禁し、自分の子供を妊娠させ、娘の代わりを作り出そうとしていたという、超飛び道具なサイコ野郎であった事が判るのです。

イイね!

哀れな存在だったのは、最初から若者達だったという絶望的な展開。

後ろめたさを抱えていた老人は、最初から若者達を帰す気などなかったのでしょう。

演出の見本のような作品

全編を通して感じたのは、とにかく無駄のないシナリオ構成と演出の教科書的丁寧さでした。

ちゃんとシーン毎にフリオチが用意されていながら、一つの行動が次の展開の材料として機能していく流れは見事だったと思います。

何気ない出来事が、後から意味を持つ仕掛けなどは、よく練られています。

あまりに優等生な出来栄えなので、意外性という意味では突出したモノがないとはいえますが、この作品が持つ高品質なエンタメ性はそうそうお目にかかれないものでしょう。

まあ、盲目の退役軍人という設定だけても充分でしょうね。

犬の使い方もなかなか良かった。

地味に怖いしね。

最後に

盛大にネタバレしてしまいましたが、全然大丈夫です。

物語の仕掛けなんてスリラー映画にとっては添え物程度の意味しかありませんから。

もしあなたがまだ本作を観ていない人類なら、是非劇場に足をお運びください。■■

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