「凶悪」を観た感想は『極上のサイコパス映画だったな』だった

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長らく忘れていたのですが、amazonプライム登録の際に、どんな映画がラインナップされているのかいっちょ見てみっか!とパラパラ見ていた所、発見したのです。

コレ観たかったんだよおおお!!

ありがとう、amazonプライム。

さて、この作品はどんな映画体験を与えてくれたのか。

ネタバレを厭わず書きますので観る予定の方はご注意を。

基本情報

『凶悪』(きょうあく)は2013年の日本の犯罪映画。ノンフィクションベストセラー小説『凶悪 -ある死刑囚の告発-』(新潮45編集部編、新潮文庫刊)を原作とした社会派サスペンス・エンターテインメント映画であり、白石和彌監督の初の長編作品でもある。出演は山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキーなど。
原作は、1999年に実際に起きた凶悪殺人事件「上申書殺人事件」を基に、獄中の死刑囚が告発した殺人事件の真相を新潮45編集部が暴き、首謀者逮捕に至るまでを描いた犯罪ドキュメントであり、2009年の文庫化で10万部を超えるベストセラーとなった他、2011年12月にはフジテレビ系バラエティ番組『奇跡体験!アンビリバボー』で紹介された。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

感想

まー怖かった。

とにかく怖いという感想です。

実際に起こった事件を元に脚色して制作された作品である事は薄っすら知っていたのですが、役者と演出が良過ぎました。

狂気が日常にある状態とはこういう事なのか。

物語は、7年前に起こった一連の殺人事件を断片的に描く事から始まります。

そして現代に戻り、とある出版社の雑誌記者である藤井の元に、死刑囚で上告中らの須藤から手紙が届くのです。

7年前に起こした殺人事件で服役中の須藤は、ある人物への恨みを晴らす為にまだ明るみに出ていない自分の余罪を告白する事で、ある人物「先生」を追い詰めたいと考えていました。

藤井記者は、まるで探偵モノのミステリ小説のような出来すぎた保険金殺人事件を、違和感を感じながらも調査し始めます。

そして、ネタのように思われた須藤の告白は、信じるに足る根拠によって突如真実味を増す中、この事件の真相を解き明かす事にのめり込んでいくのです。

演出的には、現代と7年前の出来事が交互に描かれ、うっかりしていると時系列を見失いがちですが、ちゃんと見ているとミスリードやモンタージュの手法が巧みに使われている事に気が付きます。

サイコパスの描写

ピエール瀧さん演じる須藤、リリー・フランキーさん演じる先生(木村)、が異常者として強っ烈なインパクトで描かれます。

殺人や暴行が描かれる作品は過去にも多数ありましたよね。

北野武監督の描くヤクザなどは、その暴力装置としての精度が非常に高いように感じました。

アウトレイジが記憶に新しいでしょうか。

北野映画で表現されるのは、あくまで任侠の世界における暴力であり、ある種まっとうな感覚、まっとうな社会生活の認識を持つ人間が、自らの信念や義理の為に暴力を使っている様子です。

作為のある暴力とでもいいましょうか。コントロールされた暴力とでもいいましょうか。

しかし本作の暴力は違うんだ。

人を虐げる事、人を殺す事、凡ゆる非人道的な行為を、呼吸をするかのように当たり前に実行してしまう人々の生態を、垣間見るのです。

より苦しめる、より貶める、より蔑む、そしてより楽しむ。

ピエール瀧の狂気

「ぶっ込んじゃお」

この言葉で表現されるのは、人を壊すコト総てです。

しかもいい方かっるっ!!

ピエール瀧さんは黙っていても何か常人とは違った空気を纏った人だと思っていました。

一筋縄ではいかない何か。

ただ、こんな極悪人だったなんて。

え?

演技?

ンなわけないでしょう!

こんなの演技で自由に出せる空気じゃないでしょう!

絶対人殺してるでしょ!

もしも。

もしも仮にあの須藤というキャラクタがピエール瀧さんの演技力による創造だとしたら、彼は恐ろしい役者なのかもしれませんよ。

僕はこの作品を観てからというもの、ピエール瀧さんは人殺しにしか見えず、とにかくビビっています。

リリー・フランキーの狂った眼

彼も、もう全うな人間に見えなくなってしまいました。

劇中、最も殺人を愉しんでいるのはリリー・フランキーさん演じる「先生」です。

つい勢いで絞め殺してしまった爺さんを須藤に鉈で解体させた後、「燃やしてみたいんだよ(^。^)」と嬉しそうに着火を買って出る。

土地の転売目的でもう半分ボケているヨレッヨレの爺さんを生き埋めにする時の、苦しそうな表情を観て超愉しそうな顔。

「あは。あははは。そんな顔されたら興奮しちゃうなぁ〜( ´∀`)」

保険金目当てで酒を飲ませて殺す爺さんを、スタンガンでイビリ倒す時のハイテンションっぷり。

「いつまで生きてんだよおお!www\(^ω^)/」

そしてラストシーン、刑務所の面会に登場する時の冷徹で狡猾な、死んだ魚のような眼。

「私は死刑じゃない生きてる、それが事実だ」

須藤との、殺人を軽々しく扱っている時のやりとりが、むっさむさ怖いのです。

もうどんなに良い人を演じられても全部嘘にしか見えない程のインパクトがありました。

名前、リリー・サイコパスだっけ? 

しかし。

あまりに強烈なインパクトがあったのでついつい二回続けて観た後で気がついたんです。

何より怖いのは何だったのか。

山田孝之の正義を疑わないサイコな瞳

地味な表現ではありましたが最も危険なのは、事件を追い掛ける事に執着して家庭崩壊をも厭わない、山田孝之さん演じる記者、藤井でした。

彼の行動は、義憤に駆られ静かなる正義感に突き動かされたキャラクタとして描かれます。

一見は。

しかし藤井は義憤に駆られたという、実に便利かついい訳効果抜群の口実を手に入れただけで、家族のコトを一切気にかけることが出来ない、別種のサイコパスなんですね。

認知症の実母を妻に丸投げし、精神的に疲弊しきった妻が必死にSOSを発信しているにも関わらず、全く意に解することなく取材を続けてしまうわけです。

そりゃ簡単に家庭崩壊します。

あまつさえ、自分の記事を茶化された際には声を荒げて反論したりとかね、もう見てらんない。

彼もまた、他人の心が見えない病気を患ったサイコパスだったというのがこの物語のオチでした。

人が狂っているのとそうでないのとでは、その境界線は何処にあるのか。

自覚のある無しに関わらず、自分の欲望達成の為に他人から眼を晒したまま生きて行けるのなら、それは狂人の始まりなのかもしれません。

そんなコトを考えて、自分を振り返り薄ら寒くなりました。

最後に

それなりにグロ表現はあるものの、然程エグくないので、人には勧めやすいサイコパス作品です。

複数回鑑賞に耐える、骨太作品ですよ!■■

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