「シン・ゴジラ」を観た感想は『自分の特撮観を思い出した』だった

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観ました、庵野秀明総監督版のゴジラ。出来るだけ情報をインプットしないように、ネットでも実生活でも「シン・~」の文字が見えただけで目をそらすように数週間を生きました。劇場映画は他にも見るので、公式トレーラーだけはまあOKって事にして。流石にトレーラーで致命的なネタバレはしないでしょうから。うっすらと絶賛されている、と云う事だけを知ってしまった状態で括目してまいりました。では感想です。

特撮ファンの目から

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この機会に乗じて吐露するワケでもないんですが、僕は特撮ファンです。かれこれ、30年以上にわたって大好きなんですよね。ファーストコンタクトはTVシリーズ「ウルトラマンレオ」でした。

 ご存知ですか、ウルトラマンレオ。

 昭和のウルトラマンシリーズの中でもほんのり異質な香りを放つタイトルです。かつてウルトラセブンとして地球を守っていたモロボシダンがレオの上司として登場するなんて設定もあって、なかなか好きです。頭の形が何を表現したいのかぱっと見イミフなあたりも、大好きです。

 ウルトラマンレオで特撮怪獣の洗礼を受けた僕は、円谷プロの存在を知ります。そしてウルトラシリーズの始祖である「ウルトラQ」に踏み込み、「怪奇大作戦」などの大人向け不思議話が持つ恐怖演出の虜となった末、「ゴジラ」に到達したんですね。

 ちょうどその頃は、第2期にあたる平成ゴジラシリーズの先駆け、1984年版「ゴジラ」の公開直前でした。ゴジラ誕生30周年を記念し、9年ぶりに新作がスクリーンに帰ってくると云う事で大々的なプロモーションが展開されていたのでした。

f:id:BL-beginner:20160808155833j:plain プロモーションの一環として、第1作目の1954年版ゴジラが深夜にノーカット放映されたんです。これを観てしまったのがとてつもない刺激となってしまいました。

 生まれて初めて同人誌的なものを創ったのもこの頃です。友人ヤノ君と二人で特撮愛好家の為の倶楽部なるものを創り、こっそり会報やカレンダーなどを作ってウヒウヒと愉しんでおりました。当時はまだ感熱コピーで作るか、1枚25円も出してコピーを刷るか、と云った選択で苦悶するような時代でした。それでも、何かこのコンテンツ群に加担しないワケにはいかない、と云う勝手な使命感に駆られて特撮と云うジャンルにズブズブとのめり込んでいったものです。

 そんな記憶、経験を持つ僕は、大人になってからと云うものゴジラシリーズはいまいちテンションがあがらず、冷ややかな視線を送っておりました。

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 新しいキングギドラはメカに改造されて人間のおもちゃに成り下がってしまったし、新しいメカゴジラはなんだか下半身だけマッチョの犬みたいなデザインだったし、そもゴジラのデザインが頻繁に変わり迷走感を発奮しているように感じられたからです。

 嗚呼、昭和のゴジラシリーズも同じようなマンネリの悪循環にマミレて終わっていったんだろうかなぁ、時代は繰り返すものなんだろうかなぁ、なんて偉そうな気持ちになっていたものです。

 ちなみに僕は平成ゴジラシリーズの初作である、第17作品目「ゴジラvsビオランテ」から、第19作品目「ゴジラvsモスラ」までは劇場で観ました。ソコで気持ちが離れた、とも云えます。もう追いかける意味ねーわと。

海外産のゴジラについて

そうやって国産ゴジラにいまいち乗り切れないまま、特撮ファンとしての欲求不満状態が続きました。昭和ゴジラに感じたあのドキドキは、自分が子供だったからなのだろうか?所詮怪獣と云う存在は子供だましでしかないのか?このまま自分は怪獣に心が震える事なく大人になっていくのか?そんな寂しさを吹き飛ばすニュースが90年代の終わり頃に飛び込みます。

 ハリウッドがゴジラを撮るらしい。

 ゴジラと云えば、海外で認められた数少ない日本製映画作品の一つである事は周知でした。日本が世界に映画の分野で誇れるものは、黒澤明とGODZILLAだけ、なんて云う自嘲めいた言葉があった程です。

 しかも監督はあのローランド・エメリッヒ……。

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 そら期待するじゃないんですか。ひゃっほーってなるじゃないですか。ユニバーサル・ソルジャーはまあそこそこでしたけど、インディペンデンス・ディあたりは豪華馬鹿映画として当時注目されていましたからね。少なくとも、「豪華」になる事は間違いないと云う確信は持てたワケです。

 しかし。

 公開された映画はGODZILLAと云う名の、巨大トカゲ映画でした。ゴールデン・ラズベリー賞3部門制覇!です。まあ興収成績ではきっちり収益を上げているのは流石の職業監督です。いずれにせよ、日本の煮しまったゴジラ・ファンは落胆の嘆息を連打したのでした。もちろん僕も。

 単純に映画としての出来栄えが酷かったと云うより「ゴジラではなかった」と云う事だったんだと思います。

ゴジラが一番苦しい時期

このあと、ゴジラは超不遇の時代を迎えます。1999年に新たに始まったミレニアムシリーズの事です。ハリウッド版が望まれたゴジラではなかった事を受け、「んじゃあ本家の日本が本物のゴジラってやつを作ってみますかねっと♪」みてーな感じだったんですきっと。「ゴジラ2000 ミレニアム」と題して公開された作品は、新ためて世界観がリセットされます。 

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 意欲は感じます。ビッシビシ感じます。それはゴジラのデザインを観ても顕著ですよね。鋭い背びれや前傾姿勢になってより獣ぽくなったりと、パっと見の期待感はぐんぐんに煽られるんです。

 がダメでしたw。

 やっぱねー、時代的なタイミングってのがあったんでしょうねー。意欲はそれなりにアッピール出来たものの、興収的にはあまりインパクトありませんでした。残念。

 この後、興収低迷が続きます。あまつさえ「とっとこハム太郎」併映と云う屈辱的な扱いにまで堕ちる始末。この頃のゴジラをちゃんと認識している人って、特撮ファンの中でも一部の心暖かな人達だけじゃないでしょうか(←云い過ぎ?)。

 結果的に上映時間は短縮されるわ、既存キャラクタ怪獣をわんさか引っ張り出すわ、もうナリフリ構ってられない状況に突入します。そして復活6作目、通算28作品目にして、再度「最終作品」が公開される事になりました。それが「ゴジラ FINAL WARS」です。

 「今の技術では本当に新しいゴジラ映画は作れない」 からの「現在考え得る最高の技術とスタッフで集大成的ゴジラを創る」つー展開から生まれた企画です。この時点で既にヤバみを感じますね。最初からイイワケしてる戦いに勝てるハズがありません。

 ただ本当に集大成的要素は散りばめられていました。東宝特撮人気怪獣が総出演です。その数なんと15体。

 15体てw

 そして監督はあの北村龍平氏。好きな人は好きだけど嫌いな人は大嫌い、そんな印象があります。まあつまり、個性的なんですよね。彼の作品は残念ながら僕の口には合わないんですが、自分流を貫き通した姿勢そのものはクリエイターとして間違っていません。

 ゴジラ映画にはマッチしていなかっただけ、です。

 この作品で、色々の意味を含みますがとにかく最終作品として幕を引く事となりました。興収的には失敗作と云える数字と共に。これでもう、日本映画業界がゴジラの新作を制作する事はないんだなぁとしみじみしたものです。

 再起を望む気にもなれませんでした。こんな事になるくらいなら、復活なんてしなでいて欲しい、そんな感情が当時のファンの総意だったような気がします。

そして2度目のハリウッド

2004年の最終作品から10年ぶり、エメゴジからで云えば14年ぶりに、まさかの再リブートがアナウンスされた時には、正直半笑いでした。

 またトカゲ?www

 まあ云いたくもなります、あの記憶はしっかり脳裏に刻み込まれているのですから。しかしトレーラーが公開され、その空気は一変しました。そのトレーラーがコレ。

 厳密な意味で最初に公開されたトレーラーではないと思いますが、僕が最初に観たのはコレでした。

 ……。

 ……。

 ……。

 よくね?

 むっさよくね!?

 渡辺謙が芹沢という役名で出演する事などもニュースとして流れてきます。ゴジラでこんなにもワクワクしたのは何年ぶりでしょうか。「期待」と「不安」の割合が、時間が経つにつれ露出し始めるニュースによって、「期待」に大きくフれていく快感を味わう事になります。

GODZILLA ゴジラ[2014] Blu-ray2枚組

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 結果的に、大変満足の行く作品でした。序盤、なかなか登場しないまま時間が過ぎ、遂に登場か!?と思ったら実はミスリードだったりして「へっ?!」となりはしたものの、怪獣映画、ゴジラ映画として実にまっとうな出来栄えだったと思います。ゴジラファンにはたまらない演出も多々ありました。

 つまりちゃんと作品に、愛情や敬意を感じられたんですね。

 ただただ借り物のIPとして予算消化する為のプロジェクトではなく、ゴジラと云う存在に原作へのリスペクトを持ちながら真正面から向き合った姿勢に、痺れたわけです。

 細かな部分で云えば、不満が無いワケではありません。ゴジラが恐怖の対象ではなく人類の守り神のような存在であった事は、やはり一番納得いきませんでした。しかし、現状考え得る最高級の手法で、ゴジラが映像作品として蘇った事への喜びの大きさに比べれば、些細な話です。これ以上を望むなんて贅沢を云っちゃいかん!と思いました。この時は。

 興収成績的にも大成功を収めた本作は、すぐに続編の制作が発表されます。しかも次回作はラドンなどの東宝怪獣が複数参戦するとのニュースまで。嗚呼生きてて良かった。まさかハリウッド製のゴジラでこんな気持ちになるなんて想像もしていませんでしたが、大好きだったゴジラが多くの人に楽しまれている事を素直に喜んだものです。

まさかの和製ゴジラ復活

でまあ、シン・ゴジラの話です。あ、前置きに4000文字以上書いちゃった。

 一番最初に流れた特報がこの映像でした。つまりスタッフや出演者の名前しかわからないんですね。しかし僕にとってはこの情報だけで充分でした。

脚本・総監督 庵野英明

監督・特技監督 樋口真嗣

 こんなにも心をザワつかせる情報が近年ありましょうやいやありません。そしてこんんなにも不安な気持ちになった事もまたありません。云うまでもなくこのコンビはガイナックス設立の盟友です。樋口真嗣氏の作品群の中では、特技監督として参加した「ガメラ3 邪神覚醒」が一番好きです。怪獣映画で云えば、生涯ランキング3位以内に確実にランクインします。甲冑のような解釈でリデザインされた甲羅や、小さく鋭さを持つ頭部に変更されたフォルムなど、むさくさカッコイイ怪獣「ガメラ」の特撮部分を作ったのが樋口さんでした。

 この作品は本当に大好きでして、当時出版された本作品の特撮シーン絵コンテを今でも時々観なおしてはうっとりする程です。この本最高です、超オススメ。

ガメラ3 邪神(イリス)覚醒 絵コンテ集

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 そんな情報を手にしながら不安が大きかったのはなぜか。「巨神兵東京に現わる」を観ていたからです。

巨神兵東京に現わる – Wikipedia

 まあヱヴァの新作に合わせて上映された、短編特撮映画なんですけどね。僕自身は実は大いに楽しみました、巨神兵。特撮というロストテクノロジーをしっかり復活させてくれた事も嬉しかったですし、出来栄えもまずまずだったと思います。

 でも。

 長編となると話は別です。もしもあのクオリティで今更長編を創るつもりだとしたら……。もしもあの詩的で観念的な演出で長編を創るつもりだとしたら……。

 これ以上ないと思える打線を組んだ上でもしスベったとしたら、気持ちが立ち直れる気がしなかったんですね。

 そう云った自己防衛本能の発動もあって、とにかく情報が洩れ聞こえてくる度に、過度な期待をしないようしないよう、平常心を保とうと努めました。愛あるが故の無関心を決め込んだワケです。

冷静で居続けようとした数カ月

僕はそれなりに劇場で映画を観るほうでして、トレーラーはどうしても避けて通れないんですね。あと劇場で配布されるチラシ。後の情報としてこのゴジラの顔デザインを観た時も「あー第一作目のゴジラをモチーフにしたんだねー」くらいのテンションを保ち続けました。

 正直不安は拡大しました。

 しっかりクッキリと、オリジナル版「ゴジラ」への経緯を感じてしまったからです。まん丸目玉や頭部のフォルムは明らかに1954年版水爆大怪獣映画「ゴジラ」へのオマージュに違いありません。

 そして状況はまさに、1954年と符合していました。つまり、1953年に公開されたハリー・ハウゼンの手による歴史的怪獣映画「原子怪獣現る」に対する回答として制作されたのが「ゴジラ」だったように、2014年に公開されたギャレゴジに対する回答として庵野秀明監督が遂に特撮映画の最高峰「ゴジラ」のメガホンをとる……。

 お分かりいただけますでしょうか。脳内でこんなテンション爆アゲの想像をしながら、「ふーん」姿勢を貫く辛さ。いや勝手に自分で作ってる辛さなんですけどね。

 捏造ツンを演じながら、不安にかきたてられる数カ月を過ごしました。そして公開。公開初日に周りの映画好き達が次々と報告をくれます。彼等は皆同じ事を云うのでした。

 「劇場へ行け」

 もーーー!!!期待するやんーーーーー!!!!もはや捏造ツンを維持出来なくなる僕。それでもバレバレでも、平常心を装って劇場に向かったのでした、エキスポシティIMAXへ。

感想

総ての不安が杞憂に終わった、素晴らしい体験でした。強く思ったのは、「1954年以来、初めて本当に面白いゴジラ映画が出来たな」と云う事です。内容については、まだまだ動員を稼いでいる作品なので語る事をやめます。

 なにより、もしあなたがまだ劇場で「シン・ゴジラ」を見ていない人類なら、是非劇場に出向き「シン・ゴジラ」を劇場で観た人類になって欲しいからです。

 色々の細かな感想はもちろんあります。山ほどあります。でもそれは、もうしばらく経ってから吐き出そうと思うのです。全然冷静に語れる気がしません。

 とにかく云える事は「庵野総監督金太郎飴映画」だと云う事です。

最後に

なんと「シン・ゴジラ」の感想そのものは300文字も書いていませんw。タイトルに偽りアリ、です!でもこの300文字足らずの感想でも、約6000文字を費やして書き連ねた特撮への想いを読んでくださった奇特なあたなには十分気持ちが伝わった、と思います(切望)。しばらくして気持ちが穏やかになった頃、「シン・ゴジラ」について感想を再度投下したいと思います。■■

ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

 

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